心房細動atrial fibrilation
心臓の鼓動が、突如極端に速くなったり遅くなったりする不整脈。中でも、心房細動と呼ばれるものは、糖尿病や高血圧、心不全、弁膜症、心筋梗塞など、重大な病気をその発症原因としていることもあり重要です。
今回は、不整脈の中でも、高齢になるにつれて罹患人口が増加する「心房細動」と、それによって引き起こされる合併症についてお話しましょう。
心房細動は、絶対性不整脈の一種で、心臓の中の心房と呼ばれる部分が不規則にかつ極めて高頻度に興奮している状態です。
心房細動の心電図波形 | 正常心拍の心電図波形 |
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実際に開胸手術の時の心臓の動き方で、心房細動と正常洞調律とを見較べていただくと解りやすいと思います。
正常洞調律の心臓 | 心房細動の心臓 |
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原因
発生頻度は、一般に40歳代では1%程度、70~80歳以上の高齢者においては、5~10%程度に認められるといわれています。ところが、残る90%以上の高齢者では発生していないことから、単なる老化現象のみによって発症するとは言い難いのが現状です。
近年分かってきた事として、心房細動が発症するのには、加齢のほかに、糖尿病・高血圧・心不全・弁膜症や心筋梗塞などの病気が関係しているとされています。また、これらの原因が特定できないものも、ときに存在します。
この心房細動は、それ自体が直接生命を脅かす可能性は低いのですが、とくに無治療で放置した場合、様々な問題を引き起こしてきます。
問題点
1.自覚症状と、そのための運動制限
2.心臓のポンプ機能低下(心不全の出現)
3.合併症としての血栓塞栓症
身体活動の高い若年者においては自覚症状の出現も無く気づかずにいるケースもありますが、中壮年くらいになってくると1の問題が発生してきます。
さらに、高齢になるに従って2の問題が大きくなってきます。
また3の血栓塞栓症とは、心房細動がある程度以上の時間持続することによって、心臓の内腔に血液の固まりを生じ、これが突然、血流にのって他の臓器にとぶ現象をいい、心房細動が正常の脈に復帰する時に起こりやすいといえます。
血栓は多くの場合、脳の動脈にとび、脳梗塞となります。(正確には脳塞栓と呼び、通常の脳梗塞とは区別されています。)
最近では国民的ヒーローにして巨人軍名誉監督が脳梗塞になった事で発作性心房細動という病名が一躍有名になりました。
このように、心房細動による脳梗塞は、しばしば重症化して直接の死因となります。また、たとえ生命をとりとめたとしても、重大な後遺症を残すことがあり、家族や周囲の人々にも、さまざまな問題をもたらすこととなります。
逆に脳梗塞の患者側からみてみると、実は、その20%前後に心房細動が関与しているといわれ、原因としてたいへん重要な要素なのです。
治療法
これらの問題点を解消するため、心房細動の治療目標は次の3段階で考えることになります。
心房細動そのものの停止・予防
起きてしまった心房細動の停止には大きく分けて薬理学的除細動と直流除細動があります。薬理学的除細動とは言葉の如く、安静状態で薬物により脈拍を安定させて最終的に正常の脈拍に戻すものです。心臓そのものに基礎疾患が隠れていたりしてできるだけ早期に正常の脈拍に戻したいときなどには直流除細動もよく行われます。
治療により心房細動を正常の脈拍に戻しても再発が多く、6ヵ月後に正常の脈を維持できる確率は、約50%前後というデータもあります。
再発を繰り返すような場合には、最近ではアブレーションという方法で発作を起こりにくくする手法も使えるようになってきました。
自覚症状の改善
自覚症状としては、脈拍の問題と心臓のポンプとしての機能に分けて考えます。
脈拍が早くなりすぎる場合(頻脈性心房細動)には薬物である程度脈拍をコントロールします。逆に脈拍が遅くなりすぎるような場合(徐脈性心房細動)にはペースメーカーを植え込んで必要な脈拍を維持することもあります。
心房細動になることによって心臓のポンプ機能が落ちてしまうといわゆる心不全症状が出現してきますので、このようなときには薬物によってある程度心臓の負担を軽減してやったり、心臓の収縮力を増すような薬物を併用することになります。
合併症の予防
最大の合併症である血栓塞栓症 の予防には、血液が血管内で固まりにくくなるように、抗凝固薬や抗血小板薬といった薬を使用するのが一般的です。
しかしながら、発作早期ほど正常化させ、かつ維持する確率は高いので、健康診断で指摘されたときや、前述のような自覚症状のあるときには、できるだけ早く受診してご相談ください。
また、日頃から発症の危険因子を予防するための食生活を心掛け、過労・睡眠不足を避けるようにしましょう。