メタボリックシンドローム
 
メタボリックシンドローム
 平成17年4月8日、日本内科学会を中心とした関係8学会(動脈硬化学会・糖尿病学会・肥満学会・高血圧学会・循環器学会・腎臓学会・血栓止血学会・内科学会)の委員で組織された「メタボリックシンドローム診断基準検討委員会」から、動脈硬化性疾患を発症しやすい複合型リスク症候群「メタボリックシンドローム」の明確な疾患概念およびその定義とその診断基準が提示されました。
 新聞各紙やテレビなどマスコミにかなり大きく取り上げられたので、お気づきになった方も多いと思いますが、この聞き慣れない病名は今後積極的に利用されることになるであろうと考えられる事から今回のテーマとさせていただきました。

 従来、動脈硬化性疾患の予防対策においては、高脂血症の管理にその重点が置かれてきました。
 しかしながら、過食・運動不足による内臓脂肪蓄積と、高血糖・高脂血症および高血圧を併せ持つ患者さんが動脈硬化性疾患を発症するケースが極めて多い事が明らかになってきました。
 この病態は以前から内臓脂肪症候群と呼ばれていたのですが、世界的に統一化の動きのあるメタボリックシンドロームという呼称に改められました。
 この用語を単純に直訳すると「代謝症候群」となり、要は従来のいわゆる生活習慣病がいくつも複合した状態を表現していると理解して問題ないと思います。
 これは従来の「死の四重奏」(Deadly Quartet)とほぼ同じ概念と思っていただいて良いと思います。


以下に同委員会によって設定された定義並びに診断基準を示します。

疾患の定義
 飽食と機械文明、車社会の中で必然的に起こる内臓脂肪の蓄積と、それを基盤にしたインシュリン抵抗性および糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧を複合合併するマルチプルリスクファクター症候群で、動脈硬化になりやすい病態。

診断基準
◎腹腔内脂肪蓄積
 :ウェスト周囲径(男性≧85cm・女性≧90cm)
 :[男女とも、CTスキャンで計測した場合の内臓脂肪面積≧100cm2に相当する]

 上記のうち、以下の2つ以上のリスクを有する場合をメタボリックシンドロームと診断。

(1)リポ蛋白異常
 :トリグリセライド≧150mg/dl
 :HDL<40mg/dl
 :男女とも、いずれか、または両方
(2)血圧高値
 :収縮期血圧≧130mmHg
 :拡張期血圧≧85mmHg
 :いずれか、または両方
(3)高血糖
 :空腹時血糖≧110mg/dl

追記:①CTスキャンなどで内臓脂肪量の測定を行うことが望ましい。
  :②ウェスト径は、立位、軽呼吸時、臍レベルで計測する。
  :③高TG血症、低HDL-C血症、高血圧、糖尿病に対する薬物治療を受けている場合はそれぞれの項目に含める。


 最初の◎に該当する方は(1)~(3)のうち2つ以上に当てはまるとメタボリックシンドロームと診断されますが、(1)~(3)についてはそれぞれ高脂血症、高血圧、糖尿病の診断基準と矛盾しないように設定されているため、健康診断などで一つ一つは積極的治療の対象とまではならない軽い異常を複数指摘される方は、メタボリックシンドロームと診断される可能性がかなり高くなります。

診断基準の各項目についてそれぞれ少し補足しておきます。
肥満
 CTスキャンで計測した場合の内臓脂肪面積≧100cm2に相当する肥満は、従来の指標であるBMI(Body Mass Index)が25以上の時にはかなりの確率で該当します。
 ただ、同程度の肥満度でもその脂肪の分布によって「リンゴ型」と「洋ナシ形」の2種類があります。
 「リンゴ型」は腹部の内臓周囲に脂肪が付く、内蔵脂肪型肥満。
 下図左側のごとくCTでも皮下脂肪(S)よりも明らかに内臓脂肪(V)が多量に蓄積しています。
 「洋ナシ形」はヒップやふとももに脂肪が付く、下半身太り型肥満。
 下図右側のごとく皮下脂肪(S)が多量にある割には内臓脂肪(V)はあまり目立ちません。
 生活習慣病にかかわりが深いのは、リンゴ型の方で、どちらかといえば男性に多い肥満と言われています。

リンゴ型(主に内臓脂肪)
洋なし型(主に皮下脂肪)


リポ蛋白異常
 従来は悪玉(LDL)コレステロール値を中心に動脈硬化のリスクを論じてきましたが、この診断基準にはコレステロール値の話題が現われてきません。これは別にコレステロール値を無視して良いのではなく、別の理由があるからです。
 実は悪玉の代表とされるLDLコレステロールをさらに細かく分けるとサイズの大きい物から小さい物までいろいろあり、その中で小型の物が多いほど動脈硬化が現われやすいことが解ってきたのです。
 さらに、中性脂肪が高い人はこの小型LDLの比率が高いことも解ってきました。
 (下図でパターンAは小型LDLの少ないグループ、パターンBは小型LDLの多いグループですが、中性脂肪が高値になるとほとんどパターンBとなってしまいます。)


血圧高値
 同じように、血圧と小型LDLの間にも一定の関係が見いだされています。小型LDLの多いグループでは正常LDLの多いグループに比べて血圧が高値になる事が判明しており、血圧異常が脂質異常と共通の基盤にあると考えられている根拠でもあります。
 また、基準となる数値そのものは、従来の高血圧ガイドラインと矛盾しない設定となっており、特に新しい基準が設定されたわけではありません。

血糖高値
 これは以前の耐糖能異常を言い換えたものですが、血圧と同様に糖尿病・耐糖能異常と小型LDLとの関係もすでに判明しており、やはり共通基盤の上に成り立っていると考えられます。


上記のごとく、メタボリックシンドロームの診断基準は別の見方をすれば従来の高脂血症の診断をさらにLDLの質にまで深めることと同じ意義を持つと思われます。


 下記のスライドはメタボリックドミノといって、まだメタボリックシンドロームの概念が固定される以前から循環器領域で動脈硬化性疾患の進展を考える一つの概念として使われてきた物ですが、メタボリックシンドロームとまったく同じと考えていただいて良いと思います。


平成18年8月追記
 せっかく8学会共同で公開された診断基準ですが、最近若干の異論が出てきているため、少々追加しておこうと思います。
元々、診断基準発表時からWHOやNCEP-ATPⅢ 等の基準との相違点が話題になっていたのですが、今回新聞・テレビなどで注目されたウェストの基準について若干の問題点が報告されました。
 東京大学の研究チームが新潟で収集したデータや、九州大学チームが福岡県久山町で収集したデータを解析した結果、高血圧・心筋梗塞などの心血管系疾患の発生頻度が女性の場合ウェスト80cmを境に大きく変化することが判明し、現在の基準である90cmで分類した場合には発症リスクに差が認められませんでした。
 個人的見解としては、男性の85cmは若干厳しく、女性の90cmは若干ゆるめの基準であるとの印象を持っていましたので、今後このデータの解釈と今後の診断基準への反映が待たれるところです。





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